キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
「聞きたくないっ」
「えー!聞いてよ~!」
「…………。」
結局、言いたいのは桜田くんで、きっと聞かないと言い続けても聞かされる羽目になるだろう。
先を考えると、何だか馬鹿らしくなって、後をついてくる桜田くんへと振り返った。
「…もぉ!話したいなら話したいって素直に……、」
そこまで言って、あたしは固まった。
桜田くんの背後から、こちらに向かって歩いてくる安堂くんが見えた。
「うわっ!?」
桜田くんの手を引いて、階段の先、パソコン室の前にあるロッカーの後ろに隠れた。
「何、チェリーちゃ…」
「黙って!」
桜田くんを制して、こそっと顔を出す。
どうやら安堂くんはあたし達に気付いていないらしい。
安堂くんはパラパラとページをめくりながら、こちらに歩いてきた。
このまま、そこの階段を曲がってくれれば、気付かれずに済む。
「…アンドー…」
「しっ!!」
呟いた桜田くんの口を押さえた。
その時、ふいに桜田くんと目が合った。
その瞳は怪訝そうにあたしを捉えていた。
何で隠れるんだよ、って言ってる瞳。
怒っているような、呆れているような、怪訝そうな瞳があたしを見下ろしていた。
諦めなきゃいけないって感情は、まるで鎖のように心を縛りつける。
好きって気持ちはますます大きく膨らんで、もう諦めることなんてできないくらい強くなってる。
「……どんどん綺麗になってるの…」
「へ…?」
あたしの言葉に、桜田くんが首をかしげた。
「思い出が、どんどん綺麗になってくの。諦めなきゃって思えば思うほど、好きって気持ちが大きくなる。どうすれば忘れることができるんだろう」
言い終わる時には、安堂くんは階段を曲がり、いなくなった。
それでも、脳裏に焼き付いてる。
「…桜田くんさ、言ってたじゃん?本当に好きな子とは、…そういうこと出来なかったって。
もしかしたら、そういうことがなかったから、綺麗な思い出のまま、消せないのかな?
どんどん綺麗になってく。綺麗なまま密封されて、だからこそ忘れられないのかな?
知らなくてよかったって最初は思ったけど…。本当は逆なのかもしれない。
知らないまま離れてしまったから、頭の中だけで進んでいくの。もし触れられていたら、あのまま傍にいられたら、どうだったんだろうって。
夢を見ているような気分で、全てが綺麗なままなんだよ…っ」
吐き出してしまった胸の内を、桜田くんは静かに聞いてくれていた。
頷くこともなく、否定することもなく。
だけど、口端だけで小さく。ほんの少しだけ笑った。