キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
でもわざとらしくないように、知らなかった頃の自分はどんな反応をするかと考えて、返事をした。
「……わ、別れちゃったんですか…、最近」
後はもう、先生の言ったことを繰り返すしかない。
こういう時、どうすればいいの!?
分が悪い時、人は言葉数が多くなるっていうけど、それは本当だった。
もう、どうしていいか分からなくて、印刷機のボタンをピコピコ押しながら、あたしは完全に目を回していた。
「つ、付き合って長かったんですか!? 彼氏、やっぱりかっこよかったんですか!? 何で別れちゃったんですか!? えと、えと…それから…っ」
「ふふ。ごめんね。気、遣わせちゃったね」
慌てるあたしに先生は、再び悲しげに笑った。
「彼とは――…」
先生がそう言うと同時に、校内放送が流れた。
『美坂先生、美坂先生。学年会を始めまーす。至急職員室に戻ってくださーい』
「この話はまた今度、ゆっくり聞いてね。この会議のためにこの資料作ってたんだった」
先生は肩を竦めて微笑むと、印刷室を後にした。
あたしは、突然の脱力に襲われる。
嵐が去った、心地がした。
(れ、恋愛ってハイレベルだぜ…!)
恋愛のれの字も未経験だと知った今、自分の力のなさに汗を拭う。
先生が会議で良かった。
これ以上、この空間で場を繋ぐことも、気の利いたことを言うことも難しかった。
冷や汗を拭って、一息つくと。
「……まだ、ここにいたの」
「ひっ!!!」
物音もなく安堂くんが現れた。
驚いて振り返ると、先生が半開きにしていたドアに寄り掛かるようにして立っていた。
「なんで、ここに…」
「クラスの面前で罰を言い渡されたの誰だっけ」
安堂くんは涼しげな顔で、毒を吐いた。
「しかも、誰を見つめてたんだっけ?」
「ち、違うよ!あれはただ単に、考え事をしていただけで…っ」
「あたしって恋したこともなかったんだー…って?」
「……ム。」
いちいち図星をついてくるので、目を据わらせて、安堂くんを睨んだ。