恋は理屈じゃない
「いや、ちょうど息抜きしたいと思っていたところだ。鞠花ちゃんが帰る前でよかった。それで、五分だけ会ってほしい理由はなんだ?」
「あっ、えっと……これ、遊園地のお礼です。受け取ってください」
一度は渡すことをあきらめたネクタイが入ったギフトケースを、速水副社長に差し出す。
「遊園地のチケットは取引先からもらったものだし、あの日はたしかハンバーガーしかご馳走しなかったのに……。かえって気を遣わせてしまって悪かったな」
速水副社長は申し訳なさそうに眉根を寄せながらも、ギフトケースを受け取ってくれた。
「副社長には料亭に連れて行ってもらったり、お土産をもらったり、いつもお世話になっているから」
「そうか。鞠花ちゃん、ありがとう。開けてもいいか?」
「はい。もちろん」
速水副社長はゴールドのリボンを解くとギフトケースを開ける。そして中からネクタイを取り出した。
「へえ、これは意外だな」
「えっ?」
「若い鞠花ちゃんがこんなシックなネクタイを選ぶとは思わなかった」
私が選んだ濃紺のネクタイを手にしながら、速水副社長が言う。
「無地のネクタイなんて地味でしたかね……」
自分で選んだネクタイに自信が持てず、上目づかいで速水副社長を見つめる。
「いや、手触りもなめらかだし品があっていい。鞠花ちゃん、ありがとう」
「いえ」