恋は理屈じゃない
「はい。私の両親って結構仲がよくて、父のネクタイも母が結んであげているんです。でも母が忙しい時は、私かお姉ちゃんに頼ってきて……。だから私、ネクタイ結ぶの意外とうまいんですよ」
「そうか」
吐息がかかりそうな近すぎる距離も、男を主張する膨らみを帯びた喉仏も、そして私を見つめる速水副社長の眼差しも、何もかもが恥ずかしいから、ついおしゃべりになってしまった。
日中じゃなくてよかった……。
そう思ったのは街灯の明かりのもとでは、顔色がはっきりとわからないから。太陽が降り注ぐ日中に速水副社長のネクタイを結んだら、真っ赤になっている顔を見られてしまうところだった。
「はい、できました」
「ありがとう。どうだ? 似合うか?」
速水副社長は前かがみになっていた姿勢を正すと、大袈裟に胸を張る。
「はい。とても」
「鏡を見るのが楽しみだ」
「ふふ」
自分が選んだネクタイを喜んで身に着けてくれた速水副社長の優しさがうれしい。満足げに笑みをもらした。
「ちなみに、男性にネクタイをプレゼントするのは初めてか?」
「はい。そうですけど……」
速水副社長がなぜ、こんなことを聞くのかわからない。それでも質問に答えると、速水副社長の口もとがいつものようにニヤリと上がった。