恋は理屈じゃない
「もう慣れました」
「そうか」
「はい」
冷え切っていた指先が、速水副社長の体温でじわりと温まっていった。
「ほかには、なにをしてほしい?」
「それじゃあ、頭をなでてくれたら、うれしいな……」
勢いに任せておねだりをすると、速水副社長がクスリと笑った。
「珍しくワガママを言う鞠花ちゃんはかわいいな」
「普段はかわいくないみたいな言い方ですね」
速水副社長が『かわいい』と褒めてくれたのに、素直に受け入れられない私はちっともかわいげがないよね……。
嫌味な言葉を口にしてしまったことを後悔していると、速水副社長の右手が頭の上に乗った。
「そんなことない。鞠花ちゃんは本当にかわいいさ」
普段よりも弱っている私を元気づけてくれる速水副社長の甘い言葉は、くすぐったくもあり、うれしくもあった。
黙ったまま瞳を閉じると、速水副社長の手が頭の上から後頭部に向かってゆっくりとすべり落ちる。
今の私って、ご主人様に頭をなでてもらって満足している犬みたい……。
少しだけ余裕を持てるようになったのも、速水副社長のおかげ。みるみるうちに身体と心が満たされていくのを実感した。
「副社長、ありがとう。もう大丈夫です」
「そうか?」
「はい」
頭をなで続けてくれていた速水副社長の動きが止まり、絡み合っていた指が解けていく。
スイートルームで思いがけずロマンチックなひと時を過ごせたことをうれしく思いつつ、ソファから立ち上がった。