恋は理屈じゃない
一路、青森へ
次の日の午前七時三十分。家の前で速水副社長を待っていると、一台のタクシーがこちらに向かってくるのが見えた。目の前でタクシーが停まると後部座席のドアが開く。
「副社長、おはようございます」
「おはよう」
挨拶をしてタクシーに乗り込むとドアが閉まり、東京駅に向かってすぐに発進した。
「昨日はよく眠れたか?」
「実は興奮して、あまりよく眠れませんでした」
笠原さんを説得するのは自分だと意気込みすぎて、昨日の夜は布団に入ってもなかなか眠れなかった。
「遠足前の子供みたいだな」
「子供扱いしないでください」
朝から私のことをからかう速水副社長に反論すると、彼はクスクスと笑った。
「新青森駅まで約三時間かかる。新幹線の中で眠るといい」
「はい」
速水副社長のさりげなく気遣いをうれしく感じていると、彼のさらなる優しさに気づいた。
「あ、ネクタイ……」
「どうだ? 似合うだろ?」
「はい、とても」
今日は仕事じゃないのにスーツ姿なのは、私がプレゼントしたネクタイを身に着けるため?
自分に都合のいいように考え過ぎかな。
そう思いつつも速水副社長の姿をじっと見つめた。
グレーのスーツと濃紺のネクタイって、相性がいいんだ……。
格好いい速水副社長の姿に惚れ惚れしながら、自分が贈ったものを身に着けてくれる喜びを噛みしめる。