恋は理屈じゃない

「鞠花ちゃんも今日はシックに決めたな。よく似合っている」

今日の私の服装はベージュのハーフコートに、膝丈の黒いタイトスカート。トップスはワインレッド色のタートルニットを選んだ。

遊園地デートでは速水副社長との年齢差を感じてしまったから、今回は落ち着いた色でまとめてみたけど、失敗じゃなかったみたい。

「ありがとうございます」

お互いを褒め合ったことがおかしくてクスクスと笑っていると、タクシーはあっという間に東京駅に到着した。

コートとビジネクバッグを手にした速水副社長と共に、新幹線に乗るためにホームに向かう。けれど普段東京駅を利用しない私にとって、どこが新幹線乗り場なのかちっともわからない。しかも朝のラッシュと重なった人波にのまれ、速水副社長の姿を見失ってしまった。

「嘘でしょ……」

辺りをぐるりと見回してもスーツ姿のサラリーマンが多くて、速水副社長を見つけることができない。

どうしよう……。

焦燥感に駆られていると、背後から不意に手を握られた。

「迷子になるとは予想外だった」

「副社長……」

速水副社長の手の温もりを感じ、聞き慣れた低い声を耳にした途端、不安でいっぱいだった心が落ち着き始める。

「手を離すなよ」

「……はい」

速水副社長の大きな手をギュッと握ると、彼もまたその手に力を込めてくれた。

今日はデートじゃないのに、ドキドキが止まらない……。

速水副社長に手を引っ張ってもらいながら、彼の斜め後ろ姿を熱く見つめた。

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