恋は理屈じゃない
重厚なドアが開いた先に見えたのは、祭壇の前に立っている神父様と、ブライダルフェアの来場客。みな一様に真剣な面持ちで新郎新婦役の私たちを見つめている。
やっぱり、花嫁役なんか引き受けるんじゃなかった……。
視線を浴びることに慣れていな私は、すでに足がすくんでしまっていた。そんな私とは対照的なのは、速水副社長だ。
「みんなカボチャだと思え」
「……っ!」
神聖な場所であるチャペルの中で、まさかそんなことを言うなんて!
速水副社長の口から飛び出した『カボチャ』というワードがおかしい。思わず小さく吹き出しそうになると、彼が小声で指示を出した。
「頭を下げて」
速水副社長の言葉通り、お辞儀をする。
「よし。ゆっくりと頭を上げるぞ」
隣の速水副社長の動きに合わせるように、静かに頭を上げた。
「右足を一歩出したら、その横に左足を揃える」
速水副社長の指示にコクリとうなずくと、足を一歩踏み出す。
「次は左足を出して、右足を揃える」
速水副社長のリードのお蔭で無事にヴァージンロードを歩き切ることができた。パイプオルガンの音色がチャペルに響き渡り、讃美歌を斉唱する。誓いの言葉では声が震えてしまったけれど、速水副社長は「大丈夫だ」と囁くと、穏やかな笑みを浮かべてうなずいてくれた。
模擬挙式の雰囲気にようやく慣れた頃、ふと彼氏の顔が頭に浮かぶ。
高校時代から付き合っている川原圭太(かわはら けいた)という同じ歳の彼氏とは、まだ将来の約束はしていない。でも、いずれ圭太と結婚できたらいいな、と私は思っている。