恋は理屈じゃない
速水副社長に手を引かれながら新幹線のグリーン車に乗り込む。シートも座席の間隔もゆったりしていることに驚きつつハーフコートを脱ぐと腰を下ろした。すると速水副社長は座席テーブルを倒し、その上にビジネスバッグから出したノートパソコンを置いた。
「仕事ですか?」
「ああ。今日中に終わらせないとならない案件があってな。忙(せわ)しなくて悪いな」
グランディオグループの速水副社長である彼は忙しい人だ。今日だって無理してスケジュールを調節したのかもしれない。
「いいえ。お仕事頑張ってください」
「ありがとう」
速水副社長は珍しくニコリと微笑むと、私の頭をポンポンと優しくなでた。
こんな至近距離でとびきりの笑顔を見たら、心臓に悪いよ……。
ドキドキと高鳴り始めた鼓動を鎮めるために、速水副社長から急いで視線を逸らすと車窓の外を眺めた。しばらくすると新幹線が滑らかに発進する。
静かなグリーン車内には、アナウンスと速水副社長がキーボードを叩く音が響き渡る。