恋は理屈じゃない
そういえば、私、速水副社長がデスクワークをしている姿を一度も見たことないな……。
そんなことに気づき、視線を隣の速水副社長に移動させた。パソコンを見つめる真剣な眼差しも、タッチパッドの上を滑る長い指も、その手の甲に浮き出る血管も、すべてが格好いい。
こんなに間近で見つめているのに、速水副社長は私の視線に気づいていないようだった。
すごい集中力……。
速水副社長の能力に改めて感心していると、前方からワゴンを押したパーサーが現れた。彼はノートパソコンを閉じると、私の座席テーブルを倒す。
「鞠花ちゃん、朝ごはんは食べてきたか?」
「はい」
「そうか」
速水副社長は頷くと、軽く手をあげてワゴンを止めた。
「コーヒーをふたつ。それからミックスサンド。あとはクッキーとチョコレートと、そのドーナツも」
速水副社長が注文した品が、私の座席テーブルの上に次から次へと置かれる。
「ありがとうございました」
手早く支払いを済ませた速水副社長は、またノートパソコンを開くと仕事を再開させた。