恋は理屈じゃない
「副社長、これ全部食べるんですか?」
「……ん? ああ」
速水副社長はキーボードを叩く手を止めずに返事をした。けれど時間が経っても、私の座席テーブルの上に置かれた食べ物に手を伸ばす気配がない。
よし、こうなったら……。
あることを思い浮かんだ私はミックスサンドの蓋を開けると、おしぼりで手を拭いた。そして、たまごサンドを手に取ると速水副社長の口に運ぶ。
「副社長。はい、あーん」
声をかけると、速水副社長の口が大きく開いた。その中にたまごサンドを入れると、パクリと口が閉じる。
なにこれ、おもしろいっ!
パソコンの画面を見つめたままムシャムシャとたまごサンドを食べる速水副社長の様子は、おかしくて、かわいい。
次はこれにしよう。
「はい、あーん」
野菜サンドを掴んで同じように声をかけると、また速水副社長の口が開いた。
いつもは子供扱いされることが多いけれど、今は速水副社長の方が子供みたいだ。
少しだけだけど仕事をする速水副社長の役に立てたことをうれしく思いながら、ミックスサンドをせっせと口に運んだ。そしてミックスサンドはあっという間になくなる。