恋は理屈じゃない
次はこれかな。
袋からクッキーを取り出すと、速水副社長の口に運ぶ。
「副社長、はい、どうぞ」
ミックスサンドの時と同じように、大きく開いた口にクッキーを入れた。すると速水副社長の眉間にシワが寄る。
「ん? なんだこれ。甘いな」
速水副社長はそう言うと、ブラックコーヒーを口に含んだ。
「クッキーですけど、チョコレートの方がよかったですか?」
「そうじゃなくて、俺は甘いものはあまり食べない」
「えっ、そうなんですか?」
甘いものしか残っていないお菓子を見つめていると、クスリという笑い声が聞こえた。
「クッキーとチョコとドーナツは鞠花ちゃんに買ったんだ」
「え? これ全部私に?」
「ああ」
私に買ってくれたお菓子の多すぎる量に驚く。
「今度は俺が食べさせてやろうか?」
隣の速水副社長の口もとが、いつものようにニヤリと上がった。
「い、いいですよ。自分で食べられます」
「そうか? 遠慮することないのに」
「遠慮してませんから……。副社長、ありがとう。いただきます」
袋からクッキーを取り出すと、口に入れる。
「話し相手になってやれずに悪いな」
「いいえ」
やっぱり速水副社長は意地悪で優しい……。
そんな彼と一緒にいられることをうれしく思いながら、またクッキーを一枚食べた。