恋は理屈じゃない

突然の恋愛宣言


新青森駅に到着するとタクシーに乗り込む。速水副社長が「グランドホテルまで」と行き先を告げると、タクシーが発進した。

「副社長、グランドホテルに笠原さんが泊まっているんですか?」

疑問に思ったことを尋ねる。

「いや。笠原はグランドホテルで働いているんだ」

「えっ? そうなんですか?」

「ああ」

初めて聞く事実に驚いていると、速水副社長がタクシーの後部座席に深くもたれかかった。

「鞠花ちゃんは蘭と笠原を結婚させたいんだろ?」

「はい」

「俺もそれが一番いいと思う」

「副社長……」

お姉ちゃんの妊娠が発覚した後、速水副社長に誘われて東京プラチナガーデンのバーでカクテルを飲んだ。その際、彼は『蘭の結婚を手助けしてやろうと思える余裕はない』とハッキリ言った。

どうして気持ちが変化したんだろう……。

答えがほしくて、速水副社長の横顔をじっと見つめた。

「遊園地で鞠花ちゃんに『失恋を忘れるには、どうしたらいいんだ?』と聞いたこと、覚えているか?」

「はい。覚えています」

今まで前方を見つめていた速水副社長の視線が、私に移動した。

「……俺も元カノの蘭以上に好きだと思える人ができた」

「……っ!」

まさか、嘘でしょ!?

速水副社長の突然の恋愛宣言に、ただただ驚く。

「だから蘭と笠原を応援することにした」

「そ、そうですか」

「ああ」

速水副社長が新たに好きになった人って、誰? それは私が知っている人? いつ好きになったの? その相手に自分の思いを伝えたの?

聞きたいことが頭の中でクルクルと回り出す。けれど事実を知るのが怖くて、結局なにひとつ、速水副社長に聞くことはできなかった。

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