恋は理屈じゃない
私たちを乗せたタクシーが、グランドホテルの入り口に横づけされる。タクシーから降りると、グランドホテルの自動ドアを足早に通った。
フロアの窓からキラキラと光りを反射する湖を横目で見ながら、速水副社長と共にロビーを進む。フロントが徐々に近づいてくると同時に、鼓動が早鐘を打ち始めた。
紺色のダブルスーツ姿でテキパキとカウンター業務をこなしているのは、笠原さんで間違いない。
何の前触れもなく姿を現した私たちを認識した笠原さんの瞳が、大きく見開かれた。
「速水副社長……」
「笠原、話がある」
速水副社長は挨拶もせずに用件だけを口にする。
「……一時間後に湖畔で」
「わかった」
速水副社長は瞳を揺らして動揺を見せる笠原さんに背中を向けると、フロントを後にした。
今、目の前に笠原さんがいるのに、なにも言えないもどかしさを抱えながら、速水副社長の後を追う。
「鞠花ちゃん、ラウンジで時間を潰そう」
「はい」
ロビーに併設されているラウンジに入ると、案内された窓際の席に腰を下ろした。
「アイスでも食べるか?」
ようやく笠原さんの居場所をつきとめ、一時間後には大事な話をするというのに……。
呑気なことを言う速水副社長を信じられない思いで見つめる。
「いりません」
「そうか。チョコレートパフェの方がよかったか」
さらに見当違いなことを言い出す速水副社長がおかしくて、小さく吹き出してしまった。