恋は理屈じゃない
「やっと笑ったな」
「えっ?」
「青森に着いてから初めて笑った」
自分でも自覚がなかったことを指摘されて驚く。
「そうですか?」
「ああ。鞠花ちゃんにはいつも笑っていてほしい」
「副社長……」
私はひとりじゃない。頼りがいがある速水副社長が傍にいてくれる……。
笠原さんを説得するんだ、と、ひとりで意気込んでいた気持ちが和らいで肩の力がスッと抜けた。
速水副社長はオーダーをするために片手をあげる。
「俺はコーヒーにするが鞠花ちゃんもコーヒーでいいか?」
「いえ、私はプリンアラモードをお願いします」
向かいの席の速水副社長の瞳が丸くなった。
「まさかのプリンアラモードだな」
私も速水副社長には、いつも笑っていてほしい。
「だって私は、まだまだ子供ですから」
「あははは。そうだな」
速水副社長は口を大きく開けると、私の大好きな笑顔を見せてくれた。
「ホットコーヒーをひとつとプリンアラモードをひとつ」
「はい。かしこまりました」
速水副社長がオーダーをすると、スタッフがさがっていく。
ついさっきまでは切羽詰まっていた心も、今は窓の外に広がる景色を楽しむ余裕が生まれている。
「綺麗ですね」
「ああ、そうだな。本当だったらゆっくりと観光したいところだ」
「はい」
速水副社長と湖でボートに乗ったり、湖畔をサイクリングするのも楽しそう。
いつか隣にいることがあたり前の仲になれたらいいのに……。
リラックスしながら景色を眺めている速水副社長の姿を熱く見つめながら、そんなことを願った。