恋は理屈じゃない

「笠原、久しぶりだな」

「……はい。お久しぶりです」

ようやく果たされた速水副社長と元秘書の再会。そこに笑顔はない。

こんなギスギスした状態で、話し合いがうまくいくのかな……。

不安を感じつつも、ふたりの様子を黙って見守った。

「笠原、突然姿を消した理由を教えてくれ」

速水副社長と笠原さんの視線がぶつかり合う。

「副社長はすべてを知っているんですよね?」

「すべてとは、笠原と蘭が付き合っていたことか?」

速水副社長がふたりの過去に触れる。

「……やはりご存知でしたか」

「笠原と蘭が付き合っていたことを知ったのは、お前が姿を消してからだ」

「そうですか……」

「ああ」

笠原さんは空を見上げると、気持ちを落ち着かせるように大きく息を吸い込んだ。そして、固い表情を浮かべたまま口を開く。

「嘘の理由を告げて強引に別れ、黙って姿を消したのは、彼女の幸せを願ったからです」

「蘭の幸せ?」

眉間にシワを寄せる速水副社長と共に、笠原さんを見つめる。

「ただの秘書の私より、次期社長になるあなたと結婚した方が彼女は幸せになれる……」

「蘭の幸せを願って別れを切り出し、身を引いた。そう言いたいのか?」

「……はい」

それは愛する女性(ひと)を思い、悩んだ末に取った行動。美談と言えば聞こえがいい。しかし、私にしてみれば笠原さんの取った行動は単なるひとりよがり。自分だけが犠牲になれば、みんなが幸せになれると思ったら大間違いだ。

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