恋は理屈じゃない
ねえ、圭太も私と同じ気持ちだよね?
指輪交換のために向き合った彼が私の手を取り、左薬指にリングをはめてくれる。私も彼の左薬指にリングをはめる。お互いの左薬指に輝くお揃いのリングを見つめながら、私たちは微笑み合う。
ああ、幸せ……。
感極まった私の瞳に、熱いものが込み上げてくる。遠くから神父様の「誓いのキスを」という言葉が聞こえてくると、彼が頬に伝わる涙を優しく拭ってくれた。指先の温もりが心地いい。
うっとりとしながら顔を上げると、彼がゆっくりと顔を近づけてくるのが見えた。
圭太……。
瞳を閉じると彼の唇が頬に触れる。その瞬間、圭太とは違う香りに気づいて瞼を開けた。すると瞳を伏せた速水副社長が、残り香と共に私の目の前から離れて行った。
えっ? 圭太はどこ?
慌てて辺りに視線を巡らせてみても、圭太の姿はどこにもない。
「ほら、退場だ」
「あっ、はい」
ようやく我に返った私は、速水副社長の腕に急いで手を添えた。
圭太の身長は速水副社長より五センチ低いし、髪型も顔の輪郭も、瞳も鼻も唇も、どこを探してもふたりに共通している部分なんてひとつもない。
それなのに速水副社長に圭太を重ねてしまったのは、模擬挙式の雰囲気にのまれたせいかもしれない……。
夢と現実の狭間で混乱してしまったことを恥ずかしいと思いながら、パチパチと拍手が起きる中、速水副社長と共にチャペルを後にした。