恋は理屈じゃない

もうこれ以上、ふたりの話合いを黙って見ているなんてできない。

笠原さんに向かって足を一歩踏み出す。

「笠原さん。お姉ちゃんは妊娠しています」

「えっ?」

「父親は笠原さん、あなたです」

「……!!」

笠原さんは口を半開きにして、驚きを隠せずに言葉を失っていた。

「今、妊娠五カ月に入りました。お姉ちゃんはひとりで赤ちゃんを産んで育てるって強がっています。産まれてくる赤ちゃんのためにも、そしてお姉ちゃんのためにも、笠原さんが必要なんです。お願いです。お姉ちゃんを支えてください」

途中、涙声になりながらも、ずっと言いたかった思いを笠原さんに伝えた。

「しかし……」

口ごもった笠原さんの視線が、速水副社長に移動する。それだけで笠原さんがなにを聞きたがっているのか、速水副社長にはわかったようだ。

「蘭にはすぐにフラれた」

「……そうですか。色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした」

深々と頭を下げる笠原さんの肩に、速水副社長の手が乗る。

「笠原、お前は優秀な秘書だ。もう一度俺の片腕となって働いてくれ。そして蘭と産まれてくる子供を幸せにしろ。いいな」

「はい」

うつむいた笠原さんの肩が小さく震え出す。

「笠原、午後三時発の新幹線を予約してある。蘭に連絡をしたらグランドホテルに辞表を提出しろ」

「……」

笠原さんは涙を拭って頭を上げたものの、返事もせずにただ茫然とするばかり。もしかして短時間のうちに進んだ話に、頭が混乱しているのかもしれない。

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