恋は理屈じゃない
えっ! お見合い? だって速水副社長には好きな人がいるはずなのに……。
初めて聞く事実に衝撃を受ける。慌てて口に手をあてると、喉まで出かかった驚きの声を押し殺した。
「でも速水副社長って彼女いるんじゃなかったっけ?」
「なんか別れたらしいよ」
「そうなんだ。でも どうして?」
「さあ。もしかしてフラれたんじゃないの」
芸能人でもないのに、こんな風に噂されるなんて……。
独身で格好いい速水副社長は女子社員の注目の的なんだと、今さら気づく。
「あんなイケメンをフる女がいるなんて信じられない」
「でもさあ、速水副社長も三十六歳でしょ。お見合いをしたってことは、やっぱ結婚に焦ってんじゃないの?」
彼女たちの声が徐々に大きくなり、ヒートアップしていく。
「そうだよね。跡継ぎもほしいだろうし」
「社長夫人っていう響きには憧れるけど、絶対苦労するよね」
「ね~」
噂話に花を咲かせていた彼女たちが更衣室から出て行った。
青森の湖畔で速水副社長に妹だと位置づけられてから一カ月が経ったけれど、いまだに彼を忘れることができずにいる私の心が大きく乱れる。
速水副社長は本当にお見合いをしたの?
無意識のうち手を強く握りしめていたことに気がつき、全身の力を抜く。
とにかく今日はお姉ちゃんの結婚式。今は装花作業に集中しよう。
そう決めると身支度を整える。そして更衣室を後にすると、結婚披露宴会場に向かった。