恋は理屈じゃない

あ、そうだ。お見合いをしたのか聞いてみようかな。でも本当だったら、どうしよう……。

まだ速水副社長のことを振り切れていない私が躊躇っていると、彼は結婚披露宴会場をグルリと見回した。

「須藤さんが飾りつけた披露宴場をひと目見ようと思って足を運んだんだが、クリスマスが待ち遠しくなる感じでいいな」

「ありがとうございます」

速水副社長の褒め言葉が、私にはなによりうれしい。勝手に緩んでしまう頬を自覚していると、彼の視線が私の足もとから上へと移動していった。

「これから着替えるのか?」

「はい」

白いワイシャツと黒いパンツの制服のままでは結婚披露宴に出席できない。だからこの後、ホテル・グランディオ東京の美容室で振袖の着付けと髪の毛のセットを予約している。

「忙しいところ邪魔して悪かったな」

「いいえ」

「じゃあな」

「はい」

結局、お見合いのことを聞けなかった……。

速水副社長との会話に物足りなさを感じながら、結婚披露宴会場を後にする彼の後ろ姿を見つめた。

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