恋は理屈じゃない
元カレ登場
編み込んでアップにした髪の毛に華やぐのは、振袖と同じ色をした赤い椿の髪飾り。そして名前にちなんで選んだ鞠模様の古典柄振袖を身にまとえば、自然に仕草もしとやかになるから不思議だった。
成人式以来の振袖姿をうれしく思いつつロビーを静かに進んでいると、年配の男性と談笑をしている速水副社長の姿を捉える。
笠原さんの上司として挙式と結婚披露宴に出席する速水副社長のスタイルは、ブラックのフォーマルスーツにシルバーのネクタイ姿。風格がある速水副社長は、どんな格好をしても素敵だ。
私に気づいた速水副社長は男性にお辞儀をして別れると、こちらに向かってきた。
『格好いいですね』って、言っちゃおうかな……。
ドキドキと鼓動を高鳴らせながら、バッグの持ち手を両手でギュッと握る。でも……。
「今日は七五三じゃないよな?」
振袖姿の私に浴びせられた速水副社長のひと声に、舞い上がっていた気分が一気に落ちた。
「もう、子供扱いしないでください!」
風船のように頬を膨らませると、速水副社長がクスクスと笑い出す。
「冗談だ。そう怒るな。綺麗な姿が台無しだ」
「綺麗って……」
速水副社長にちょこっと褒められただけで、うれしくなってしまう私は単純だ。
やっぱり私は、意地悪で優しい速水副社長のことが好き……。
自分の気持ちを再認識していると、背後からふいに声をかけられた。
「鞠花?」
懐かしい声に驚いて振り返る。その先に見えたのは、あの人物だった。