恋は理屈じゃない

「圭太……」

こんな場所で圭太と再会するなんて……。

驚きで声が震える。

「久ぶりだな。元気そうで安心した」

「う、うん。圭太もね」

圭太は私の隣にいる速水副社長を観察するように見つめると、小さく会釈した。速水副社長も会釈を返す。

「会社の先輩の結婚式に呼ばれてさ、さっき披露宴が終わったところ」

「そうなんだ」

圭太は引き出物が入ったブライダルバッグを軽く掲げると、さらに話を続けた。

「鞠花は仕事?って、着物姿で仕事のわけないか……。誰かの結婚式?」

元カレである圭太は、私がホテル・グランディオ東京の結婚披露宴会場で装花の仕事をしていることを知っている。

「これからお姉ちゃんの結婚式なの」

「へえ、鞠花の姉さん、結婚するんだ。おめでとう」

「ありがとう」

私との距離を一歩縮めた圭太から、お酒の臭いが漂ってきた。

「俺が鞠花の家に遊びに行くたびに、姉さんが菓子やジュースを用意してくれたよな」

「そ、そうだったっけ?」

「なんだ、覚えてないのかよ。『圭太くん、いらっしゃい』って、歓迎してくれてさ。今だからぶっちゃけるけど俺、鞠花の姉さんに憧れていた時期もあったんだぜ」

「……」

なんで、そんな話を今ここでするの?

圭太と速水副社長に挟まれ、なんとも居心地が悪い。早く会話を切り上げるには、どうしたらいいんだろう……。

ふたりを交互に見つめて悩んでいると、速水副社長が圭太の前に足を踏み出した。

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