恋は理屈じゃない
「悪い。鞠花ちゃんと言い争うつもりじゃなかったんだ。ただ無礼なアイツが鞠花ちゃんの元カレだと思うと、無性にムカついて仕方なかった」
頭の上から降り落ちてきた速水副社長の言葉に驚き、顔を勢いよく上げる。すると彼は黒髪をクシャッと掻いた。
まさか、これってヤキモチ?
整えた髪の毛を乱して動揺を見せるなんて、速水副社長らしくない。
圭太に嫉妬しているということは、もしかして私のことを……?
わずかな期待が心の片隅に芽吹いた。でも、それはほんの一瞬のこと。
だって速水副社長は私のことを女として見ていない。彼が気を揉むのは、出来の悪い妹を心配する兄の心境なんだとすぐに理解した。
それに速水副社長は……。
「副社長、お見合いしたって本当ですか?」
事実を知るのが怖くて避けていた話題を思い切って尋ねてみると、髪の毛を掻いていた速水副社長の動きが止まった。
「……誰から聞いた?」
「更衣室で女子社員が噂していました」
「ったく……。女はくだらない噂話が好きだな」
速水副社長は眉間に指先をあてると、渋い表情を浮かべる。
「それで、本当にお見合いしたんですか?」
「……ああ。本当だ」
更衣室で聞いた噂が嘘であってほしいと願っていた思いが、一瞬のうちに崩れ落ちた。
でも速水副社長には、好きな人がいるはず。それなのに、どうしてお見合いをしたの?
訳がわからず、速水副社長の顔を見上げる。すると私の視線に気づいた彼が、小さな笑みを浮かべた。