恋は理屈じゃない
「何故見合いをしたのか、聞きたげな顔をしているな」
「……っ!」
考えていることがすぐ顔に出る単純な自分が情けなく、そして速水副社長は相変わらず鋭いと思った。
彼の顔から笑みが消える。
「俺は、恋愛と結婚は別ものだと思っている」
速水副社長は、次期社長になる人だ。好きな人がいても、自分の思いだけを押し通して結婚できる立場ではないのかもしれない。
「それじゃあ、そのお見合い相手の方と結婚……するんですか?」
「そうなるだろうな」
速水副社長はためらうことなく、お見合い相手と結婚することを認めた。
料亭さくらいのお嬢様がどんな女性なのか私は知らない。けれど速水副社長が結婚を決めたということは、そのお嬢様は次期社長夫人にふさわしい気品のある女性なのだろう。
「そ、そうですか。……おめでとうございます」
「ありがとう」
本当は、結婚してほしくない。
「あ、そうだ。式の日取りが決まったら教えてくださいね。お祝い送りますから」
「ああ、わかった」
本当は、結婚を祝う気持ちなんて微塵もない。私が速水副社長に伝えたいのは、上辺だけのお祝いの言葉じゃないはずだ。
今度こそ自分の気持ちを速水副社長にきちんと伝えよう。あの時、告白していればよかったと、後悔したくない。
背筋を伸ばすと、速水副社長の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「私、副社長のことが……好きです」
「鞠花ちゃん……」