恋は理屈じゃない
青森では伝えることができなかった『好き』という二文字を初めて口にしたら、身体が小さく震えた。
「私が元カレの圭太よりも好きになった人は副社長、あなたです」
「……」
お見合いをして結婚を決めた速水副社長にとって、私の告白など迷惑なだけかもしれない。けれど、一度口にしてしまった思いを途中で止めることはできなかった。
「副社長は青森で自分のことを『兄だと思って遠慮せずに頼ってくれ』って、言ったけれどそれは無理です。だって私は、副社長のことが好きだから……」
自分の思いを最後まで伝え終わると同時に、張りつめていた気持ちと涙腺が一気に緩む。
「鞠花ちゃん、ありがとう。でも俺は……」
「言わないでっ! 副社長の気持ちはわかっていますから……」
「……」
勝手に告白して、勝手に泣いたら、速水副社長を困らせるだけ……。
じわじわと込み上げてきた涙を堪えるために、大きく息を吐き出した。
「そろそろ挙式の時間ですよね?」
「ああ、そうだな」
元カレの圭太と別れてこの場所に来てから、それなりの時間が経っている。
「私、お手洗いに寄るので先に行ってください」
「……わかった」
「それじゃあ」
「ああ」
わざと明るく振舞ってみても、心の痛みは簡単には治まらない。
失恋って、こんなに辛かったっけ?
私に背中を向けて非常扉を開ける速水副社長の後ろ姿を見つめていたら、瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。