恋は理屈じゃない
病院に到着すると、分娩室の前のイスに両親が座っていた。
「お母さん! 産まれた?」
「まだよ。分娩室に移動してから一時間が経ったから、そろそろだとは思うけど」
「そうなんだ……」
私には妊娠出産のことはよくわからない。けれど新しい生命が誕生することは、簡単じゃないことだけはよくわかった。
産まれるのを待つしかできないことをもどかしく思いながら、分娩室前のイスに座る。
お姉ちゃんも赤ちゃんも、そして立ち会っている義理の兄の笠原さんもがんばって。
両手を合わせると、無事に赤ちゃんが産まれることだけを祈り続ける。そんな時間が三十分ほど過ぎた頃、分娩室から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
私と母親は息をのみ、お互いの手をきつく握り合う。父親もベンチから立ち上がり、私たちは無言のまま分娩室のドアをじっと見つめた。
お姉ちゃんは無事なの? 赤ちゃんは元気?
早く知りたい。
逸る気持ちを押さえきれずにヤキモキしていると、ようやく分娩室のドアが開いた。
「笠原蘭さんのご家族の方、中にどうぞ」
「はい」
看護師さんの言葉に、いち早く返事をした父親の後に続く。