恋は理屈じゃない
分娩台の上には、出産を終えて疲れ果てているものの、母親になった自信と喜びに満ち溢れた笑みを浮かべているお姉ちゃんの姿があった。その隣には、新しく誕生した小さな赤ちゃんの姿もある。
「お姉ちゃん、お義兄さん、おめでとう」
お姉ちゃんが無事に出産を終えた安堵と、赤ちゃんがこの世に産まれてきてくれた感動で、胸がいっぱいになった。涙ながらにお祝いの言葉を言うと、お姉ちゃんがクスリと笑う。
「ありがとう。鞠花ちゃんも彰さんも泣き虫ね」
「えっ?」
お姉ちゃんと赤ちゃんに寄り添うお義兄さんを見上げると、たしかにその目はウサギのように真っ赤になっていた。
速水副社長の後ろに控えてサポートに徹しているお義兄さんは、一見すると冷静沈着そうだけれど、意外と涙もろいよね……。
お義兄さんは私と視線が合うと、はにかんだ笑みを浮かべた。
いつか私も、我が子をこの胸に抱ける日が訪れるといいな……。
今まで出産願望などなかった私がこんなことを思ったのは、その小さくてかわいらしい赤ちゃんの存在に心を奪われたから。
小さな口を開けてあくびをする赤ちゃんに目を細めながら、新しい家族が誕生した喜びに浸った。