恋は理屈じゃない

「じゃあ、須藤さん。改めて乾杯しましょうか」

「はい」

お互いのグラスをカチンと合わせる。

「今日の合コンに参加して正解だな」

「正解?」

「そう。かわいらしい須藤さんと出会えたからね」

「そ、そんな……」

女性が喜ぶ褒め言葉をサラリと口にするなんて、芳川さんは合コン慣れしているんだ……。

お世辞だとわかっていても、恥ずかしい。

「鞠花って、名前もかわいいよね」

「あ、ありがとうございます」

さらに恥ずかしくなるような芳川さんの言葉に、居心地の悪さを感じてしまうのは何故だろう……。

「すみません。ちょっとお手洗いに行ってきます」

「どうぞ」

バッグを手にするとイスから立ち上がり、個室を出る。そして早足で廊下を進むと、トイレに入って鏡を覗き込んだ。

合コン慣れしている芳川さんはきっと誰にでも、甘い言葉を囁いている。こんなことでいちいち動揺していたら身がもたない。上辺だけの褒め言葉なんか軽く聞き流さなくちゃ……。

鏡の中の自分に向かって言い聞かせた。

合コンは始まったばかり。ほかの人とも話をして楽しもう。

気持ちを切り替えて髪型を整えるとトイレから出た。けれど通路の先で壁に背中をあずけている芳川さんの姿を見て、足がピタリと止まってしまう。

「須藤さん、大丈夫? もしかして気持ちが悪くなったのかと思って心配したよ」

「す、すみません。大丈夫です」

「お酒に酔ったなら遠慮しないで言ってよ。俺、医者だから」

「……」

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