恋は理屈じゃない
私のことを心配してくれる芳川さんは、親切でいい人なんだろう。でも彼の言葉を素直に聞き入れることができない自分がいた。
芳川さんは壁から背中を離すと、私に近づいてくる。
「須藤さん、合コンに参加しているってことは彼氏いないんだよね?」
「……はい」
戸惑いながらも返事をすると、芳川さんの口角が不気味に上がった。
「俺も今は彼女いないんだ。早速だけど連絡先交換しない?」
「……」
メタルフレームの眼鏡の奥に見える芳川さんの瞳が笑っていないことに気づく。
なんだか怖い……。
目の前でスマートフォンを操作し始めた芳川さんに恐怖心を抱いてしまった私は、琴美に助けを求めるために足を踏み出した。彼の脇を通り抜けると、急いで個室に向かう。
「あっ、須藤さん!」
私を呼び止める声が聞こえてくる。それでも足を止めずに通路を進んだ。しかし簡単に追いつかれ、お店の入り口付近で手首を掴まれてしまった。
「……っ!」
芳川さんに触れられた途端、肌が粟立つ。
まだ知り合ったばかりなのに、こんな風に積極的に迫られるなんて……。
驚きと恐怖で身体が固まり、声をあげることすらできなかった。
助けて……。
心の中で叫んでみても、琴美には伝わらない。芳川さんから逃れるには、どうしたらいいの?
必死に考えを巡らせていると背後から突然、手が伸びてきた。その手は躊躇うことなく、私の手首を掴んでいる芳川さんの手を振り払う。