恋は理屈じゃない

な、なに?

突然起きた出来事に驚いて顔を上げる。

「……っ!」

どうして、速水副社長がここに?

訳がわからずに唖然と立ちすくんでいると、速水副社長が私の前に回り込んできた。

「鞠花ちゃん、大丈夫だったか?」

両腕を掴まれ、顔を覗き込まれる。

彼の姿を見て、彼の声を聞き、彼の体温を感じた途端、心の中で燻っていた恐怖と不安が一瞬で消え去った。

速水副社長の問いかけにコクリとうなずく。すると速水副社長の背後から、芳川さんの大きな声が聞こえてきた。

「アンタ、誰?」

速水副社長は眉間にシワを寄せると私の両腕から手を離す。そして身体を半回転させると、芳川さんと向き合った。

私を守ってくれる速水副社長の大きな背中を見ていたら、心から無理やり追い払った感情が一気に膨れ上がった。

やっぱり私は、速水副社長のことが好き……。

彼がお見合いをして、その相手と結婚すると知ってから四カ月以上が経った今でも、その思いは変わらないことに気づいた。私を庇ってくれている速水副社長の背後から足を一歩踏み出す。

「彼は私の大切な人です」

合コンに参加したのは、素敵な彼氏をゲットして失恋を忘れたかったから。でも未だに速水副社長のことを忘れることができない私が合コンに参加したのは間違いだった……。

「彼氏いないって嘘ついたんだ? アンタ最低な女だな」

嘘はついていないけれど、芳川さんの言葉に反論できない。

「……ごめんなさい」

頭を下げて謝る。そんな私の脇を芳川さんが無言のまま通り過ぎて行った。気まずい気持ちを抱えながら頭を上げると、速水副社長と視線が合う。

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