恋は理屈じゃない
ドライブ
グラスビールを一杯とカシスオレンジを少し飲んだだけなのに、頬がほんのりと熱を帯びるのは、速水副社長に手を引かれているから。
久しぶりに感じる速水副社長の温もりをうれしく思っていると、彼の足が止まった。速水副社長は道路の路肩に止まっている車のロックを解除すると、助手席のドアを開ける。
「どうぞ」
「えっ? これって副社長の車なんですか?」
速水副社長は、笠原さんが運転する車の後部座席に座っているイメージが強い。そんな彼が高級そうなスポーツタイプの車を、自ら運転してきたことに驚いてしまった。
「そうだ。ほら、早く乗れ」
「あ、はい」
急かされるように助手席に座るとドアが閉まる。シートベルトを締めていると、速水副社長が運転席に乗り込みエンジンをかけた。彼がウインカーを出すと、滑るように車が発進する。
「さて、これからどこに行く?」
「えっ? 決まっていないんですか?」
『静かに話がしたい』と言っていたから、てっきり目的地が決まっていると思っていたのに……。
今日の速水副社長の言動は、わけがわからないことだらけだ。
「まあな。そうだな……横浜にでも行くか?」
「はい!」
横浜だったら、きっと綺麗な夜景が見られる。
まるでデートのような行き先を聞き、気分が高揚した。
速水副社長が運転する車は緩やかな坂道を上がる。そしてETCゲートをくぐると高速道路に合流した。