恋は理屈じゃない
「今日は仕事がオフだったんだ。だから昼過ぎまで寝て、夕方から蘭の見舞いに行ってきた」
紺色のテーラードジャケット姿と、自ら車を運転してきた理由がわかり納得する。
「そうだったんですか。じゃあ、撫子ちゃんにも会ったんですよね?」
「ああ」
今日会えなかった愛らしい姪っ子の姿が頭に浮かび、頬が勝手に緩んでしまった。
「撫子ちゃん、かわいかったでしょ? ほっぺは柔らかくてマシュマロみたいだし、あんなに手が小さいのに握る力が強かったり、ずっと見ていても飽きないですよね」
「ああ、そうだな」
クスクスという速水副社長の笑い声を聞き、ハッと我に返る。
「あ、ひとりで興奮しちゃった。すみません」
「謝ることはない。撫子ちゃんのことがかわいくて仕方ないんだな」
「はい。赤ちゃんがあんなにかわいいなんて、初めて知りました」
撫子ちゃんトークに盛り上がっていると、速水副社長がとんでもないことを口走る。
「そうか、だったら野球チームができるくらいたくさん産めばいい」
「そ、そんなにたくさんは……無理かな」
車という狭い密室の空間で、なんとなく微妙な会話になってしまったことが恥ずかしい。速水副社長からさりげなく視線を逸らすと、助手席の窓から外の景色を眺めた。
「まあ、さすがの俺もそんなにたくさんは厳しいな」
「えっ?」
速水副社長も子供好きってこと?
運転席の彼に視線を戻すと、口もとが意味ありげに上がった。
「ひとり言だ。深く考えるな」
「……はい」