恋は理屈じゃない
結婚相手どころか彼氏すらいない私が、子供のことについて考えても仕方ない。速水副社長の言う通り、もう深く考えないことにした。
沈黙の中、運転席の速水副社長をそっと盗み見する。ハンドルを握る彼の姿は文句なしに格好いい。ドキドキと胸を鳴らしながら彼の横顔をチラチラと見つめていると、その口がゆっくりと動いた。
「こうして、ゆっくり話すのも久しぶりだな。元気そうで安心した」
「はい、おかげさまで。副社長もお元気そうですね」
世間話のような会話でさえ楽しくて、勝手に笑みがこぼれてしまう。しかし速水副社長の反応は明るいものではなかった。
「そう見えるか?」
「えっ? どこか具合が悪いんですか?」
速水副社長の眉尻が下がる。
「身体は元気だ。しかし心がな……」
グランディオグループの副社長という立場上、悩みが尽きないのは仕方ないのかもしれない。それでも愚痴や不満を聞くくらいなら、私にでもできる。
「仕事のことですか?」
少しでも速水副社長の役に立ちたくて、運転している彼の横顔を真剣に見つめた。
「いや。誰かさんが合コンなんかに参加するから、えらく心を乱された」
急に仕事とは一切関係のない話をされて、戸惑ってしまう。
「そ、そういえば、私があのお店にいるって、どうしてわかったんですか?」
合コン会場でも聞いたことを、再び尋ねる。
「蘭と笠原のところに見舞いに行っただろ? そうしたら鞠花ちゃんが合コンに行ったと聞かされたんだ」
「あっ!」