恋は理屈じゃない

そういえば昨日、お見舞い帰りにお姉ちゃんに呼び止められたことを思い出す。

「鞠花ちゃんが合コンに参加していると聞いて、無性に腹が立ったし、手遅れになってしまうと思って焦った。蘭が合コン場所を知ってくれていて助かった」

速水副社長は時折バックミラーで後方を確認しつつ静かに語った。

彼が合コン会場を知った経緯はわかったものの、まだわからないことが多い。

どうして突然、私の前に姿を現したの? それに心が乱れたとか、腹が立ったとか、手遅れになるとか、どういう意味?

なにから聞けばいいのか悩んでいると、斜め前方に見覚えのある建物が目に飛び込んできた。

「あっ! あれってランドマークタワーじゃないですか?」

「ああ、そうだな」

「あっ! ベイブリッジも見える!」

徐々に近づいていく横浜の夜景を見て興奮気味に声をあげていると、クスクスという笑い声が聞こえてきた。

子供っぽい反応をしてしまったことが恥ずかしい。きっといつものように、からかわれる……。

そう思い、両手を膝の上に乗せて縮こまった。けれど……。

「素直な反応も、その笑顔も、ひとり占めしたいくらいかわいいな」

まさかの甘い言葉に、耳を疑う。

「じょ、冗談言わないでください」

「冗談じゃないと言ったら、迷惑か?」

「……!?」

やっぱり、今日の速水副社長はちょっと変だ。

ハンドルを握る彼の横顔を食い入るように見つめてみても、どれが本音でどれが冗談なのか、私にはわからなかった。

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