恋は理屈じゃない
「えっ、ど、どうして……」
「俺と話していると楽しそうに笑うし、ちょっかいを出すとすぐに顔が赤くなるからな」
「ぅっ……」
単純すぎる自分が恥ずかしい……。
「何度も鞠花ちゃんに自分の思いを伝えようとした。しかし、あることが気になって告白できなかった」
「あること?」
速水副社長は私から視線を逸らすと展望台の柵に手を乗せた。そして横浜の夜景を見つめる。
「短期間とはいえ、俺は蘭と付き合っていた。その蘭の妹である鞠花ちゃんと俺が付き合うことになったら、社員たちの間で様々な噂が飛び交うだろう。俺は鞠花ちゃんを好奇の目にさらしたくなかった。だから、好きだという感情を押し殺して鞠花ちゃんのことは妹として接しようと決めた」
「……」
思慮深い速水副社長に驚き、黙ったまま彼の横顔を見つめた。すると速水副社長が私に視線を向ける。
「だが鞠花ちゃんのことはあきらめると決めたのに、合コンに参加していると聞いた途端、理性が吹き飛んだ。気がついたら蘭の病室を飛び出して合コン会場に車を飛ばしていた。鞠花ちゃんは俺のことなんかとっくに好きじゃなくなっているかもしれないのにな」
速水副社長の顔に、少し照れたような笑みが浮かんだ。
「合コンに参加したのは、新しい彼氏を作って副社長のことを忘れようと思ったからです」
「そうか」
「はい」
海を渡る潮風が、私の髪をふわりと揺らす。速水副社長の指が、頬にかかった髪の毛を優しく払い除けてくれた。