恋は理屈じゃない
「そうか、それなら遠慮しなくていいな」
「えっ? あっ……」
抵抗する間もなく強く腰を引き寄せられ、再び唇を塞がれる。
「……ぅふ」
速水副社長のとろけるようなキスに翻弄され、堪え切れずに唇の端から声を漏らしてしまった。すると彼の唇がスッと離れる。
「……これ以上は……ちょっとマズイことになりそうだ」
「……は、はい」
速水副社長は私の腰に回していた手を緩めると、視線を逸らして片方の手で鼻先を掻いた。私よりひと回りも年上で常に落ち着きがある彼が、余裕のない様子を見せるのは珍しい。
それって、私をひとりの女性として見てくれている証拠だよね?
子供扱いされることが多かった私は、ひとり喜びに浸る。
「なに笑っている?」
「別に笑っていないですけど」
「嘘つけ。ニヤけた顔しているぞ」
速水副社長の指が、私の両頬をムニッとつまむ。
「ひゃめてくらさい!」
言葉が変なのは、頬をつままれたせい。
「なに言ってるか、わからないな」
「ひじわるっ!」
「あははは」
必死に抵抗する私を、速水副社長はおもしろがる。
「もう……」
ようやく頬から彼の手が離れてホッとしたのも束の間、今度は手首を掴まれ身体を引き寄せられた。
「やっと、キスできた」
「……はい」
速水副社長の腕の中にすっぽりと収まりながら、彼の心地よい温もりをうれしく思う。
「青森では寸止めだったからな」
「あっ……」
青森の湖畔で起きた出来事が、脳裏によみがえる。