恋は理屈じゃない
あの時は、もうすでに両思いだったんだよね……。
遠回りした分、気持ちが通じ合った喜びもひとしおだ。
「もう我慢しなくていいんだよな?」
「えっ?」
なにを我慢しなくていいのかわからずにいると、瞬く間に唇を奪われた。チュッと音がする短いキスが終わると、速水副社長の顔に笑みが浮かぶ。
「これは青森でキスしそこねた分だ」
「はい、わかりました」
速水副社長の子供っぽい言い訳がおかしい。小さく吹き出すと、また強く抱きしめられた。
「本当はずっとこのままでいたいが、そろそろ帰らないとな……。明日は仕事だろ?」
速水副社長のくぐもった声を聞き、彼の顔を見上げる。
「実は明日、仕事休みなんです」
「えっ?」
速水副社長は短く声を上げると、私を抱きしめていた両手を放つ。
「合コンでお酒を飲んだら、明日の朝早く起きられる自信なくて……。だから有休を取りました」
「じゃあ、今日は……」
「このままずっと夜景を見ていても大丈夫です」
速水副社長との初デートは横浜。この綺麗な夜景を彼と一緒にもっと見ていられることを、うれしく思った。しかし速水副社長の眉間にシワが寄る。
「いや、そうじゃなくて……」
「はい?」
あ、私が休みでも、速水副社長はきっと仕事だ。
名残惜しいけれど彼の言う通り、もう帰らないとだめだよね……。