恋は理屈じゃない
握っている手にギュッと力を込めると、速水副社長も強く握り返してくれる。そんな些細なことをうれしく思っていると、エレベーターが最上階に到着した。
速水副社長がドアを開けてくれた部屋に入ると、その広さと豪華さに驚く。シックな色合いで統一された室内にはソファがL字に配置され、テーブルにはウエルカムシャンパンとフルーツの盛り合わせが置かれていた。
ホテル・グランディオ東京のスイートルームにも引けをとらないこの部屋の一番すごいところは、正面の窓からライトアップされている観覧車が一望できることだ。
「綺麗!」
声をあげて窓に向かって小走りをすると、間近に迫った横浜の夜景を食い入るように見つめる。
「気に入ってくれたか?」
「はい、もちろん!」
速水副社長は私のお腹に腕を回すと、背後から身体を密着させた。
「やはり鞠花ちゃんには笑顔が似合う。かわいいな」
耳もとで甘く囁かれる様子が、窓に反射して見えて恥ずかしい。
「ふ、副社長はお世辞が上手ですね」
「お世辞じゃないさ。それよりも俺のことをいつまで“副社長”と呼ぶつもりだ?」
そんなこと、急に言われても困ってしまう。
「だって、副社長は副社長だもん」
「もっと別な呼び方があるだろう」
彼に言われて思いついたのは、ごくごく普通の呼び名……。
「じゃあ……速水さん?」
「却下」
「ち、千歳……さん」
「まあ、いいだろう。それじゃあ、早速呼んでみてくれ」
ホテルの一室で身体を密着させながらのラブレッスンが突然始まる。