恋は理屈じゃない

「ち、千歳さん」

「まだ、固いな。もう一度」

「千歳、さん」

「いい感じだ。ほら、もう一度」

いつまでやるの?

そう思いつつも彼の熱意には逆らえず、名前を呼び続けた。

「千歳さん」

今度は自分でもスムーズに名前を呼べたと思った。その瞬間、私を抱きしめる千歳さんの力が強まる。

「鞠花……愛してる」

和やかな雰囲気から一転、甘くストレートな彼の愛情表現に驚く。そうしている間にも腰に回っていた彼の片手が私の髪の毛を払い、露わになったうなじにくちづけが落とされた。千歳さんの唇がうなじから徐々に上に這っていく。

「……ぁ」

声が漏れてしまったのは、耳たぶを甘噛みされたから。

このまま続いたら、身がもたない……。

与えられる刺激に身体が小さく震え始めると、千歳さんの動きがピタリと止まった。

「悪い、つい……」

「い、いえ」

彼は私の身体から腕を離すとバツが悪そうに頭を掻く。そして背を向けた。

「そうだ、バーに行ってアルコールでも飲むか?」

彼の後ろ姿を見て考える。

男の人って、キスだけで満足できるものなの? 千歳さんは私を怖がらせないように、我慢してくれているんだ……。

彼の優しさはうれしい。でも、もう我慢しないでほしい。

「千歳さん」

「ん?」

背後から彼のテーラードジャケットの裾を指先でつまむ。

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