恋は理屈じゃない
女子社員にも人気がある速水副社長が、お姉ちゃんの彼氏だという事実がうれしい。
鼻高々な気分になりながらメイクを直すと、ロッカーの扉を閉めて更衣室を後にした。足取りも軽く通路を進み、通用口から外に出る。すると空から大きな雨粒がボトボトと落ちてきた。
日中はあんなに天気がよかったのに、夕立に遭うなんてついてない……。
高ぶっていた感情が少しだけ沈んだ。それでも気持ちを切り替えると、更衣室に戻ってロッカーから置き傘を手に取り外に出た。
待ち合わせしたのは、駅前の有名コーヒーショップ。メニューが豊富で、値段もお手頃なところが気に入っている。
水溜りを避けつつ駅までの道のりを進むこと、約十分。コーヒーショップに到着すると、雨粒が滴れる傘を閉じて自動ドアを通った。そして店内をぐるりと見回す。けれど圭太の姿はない。今の時刻は午後六時五十分。待ち合わせした七時まで、あと十分ある。
濡れてしまった肩先をハンカチで拭きながらアイスカフェオレをオーダーすると、窓際の席に腰を下ろす。すると自動ドアが開き、圭太が店内に入ってきた。
「圭太!」
手を振る私に気づいた圭太が、こちらに向かってくる。
「ごめん。待った?」
圭太は今年の四月に大手商社に入社したばかり。学生時代のラフな格好とは違い、少し大人びて見えるスーツ姿の圭太に、胸がドキリと高鳴った。