恋は理屈じゃない
「説明は移動しながらする」
「あっ、でも、まだ後片づけが……」
動揺しつつも、今の自分の状況を訴える。すると彼は後方に控えていた人物に指示を出した。
「笠原(かさはら)。頼む」
「はい。かしこまりました」
笠原さんは返事をすると、床に舞い落ちた花びらを拾い出す。紺色のスーツをスマートに着こなしている彼の秘書である笠原さんに、こんな作業をさせてしまって申し訳なく思った。
強引に事を運ぼうとする彼の名は速水千歳(はやみ ちとせ)、三十六歳。身長は百八十センチで体重は六十八キロ。左から右に流れている黒髪は短く整えられて、清潔感が漂っている。二重の凛々しい瞳とスッと通った鼻筋、形のいい少し厚めの唇がバランスよく配置された顔立ちはまさに容姿端麗。非の打ち所がない。
その上、速水千歳はグランディオグループの副社長を務めており、その立場からか、決断力と行動力に優れ、頼りがいがある、らしい。
何故、速水千歳のことをここまで詳しく知っているのかというと、それは五歳年上の姉、須藤蘭(すどう らん)から彼のことを聞いたから。
そう。速水副社長と付き合っているのは、私の姉なのだ。
ふたりが付き合い始めたのは、一週間前。ホテル・グランディオ東京内のフラワーショップ、フローリスト須藤の店舗で働いているお姉ちゃんのことが、前々から気になっていたという彼、速水副社長に交際を申し込まれたのがきっかけだ。