恋は理屈じゃない
エアコンが効いた車内とは一転、外は排気ガスと湿度が高い残暑の空気が混じり合い、とても不快だ。けれど今はそんなこと言っている場合じゃない。食い入るように圭太の姿を目で追った。
圭太は髪の長い女の子と腕を組みながら、笑顔で会話をしている。それは、どこからどう見ても、恋人同士にしか見えなかった。
コーヒーショップでの出来事が頭によみがえる。
休みが合わないとか言っていたけれど、本当は私以外の人と付き合うことになったから別れてほしかったんだ……。
圭太が別れたがっていた本当の理由がわかり、胸がズキンと痛み出す。
これ以上、圭太の姿を追うことができなくなった私は、静かに窓を閉めた。信号が青になり、車が発進する。
「ため息の理由だが、なんとなくわかった。今日はこのまま家に送る」
うつむきながら唇を噛みしめて、涙がこぼれ落ちるのを我慢した。すると速水副社長の大きな手が頭の上に乗る。
彼の気遣いはうれしい。でも今は、このまま大人しく家に帰る気分じゃない。
「副社長、ワガママ言ってもいいですか?」
「ん? なんだ?」
「今日は思い切り酔いたい気分です」
強引なくせに優しい速水副社長に甘えると、彼は瞳を細めてクスッと笑った。
「わかった。とことん付き合ってやる」
「ありがとうございます」
私の頭をクシャッとなでる速水副社長の温もりを感じていたら、胸の痛みが少し和らいだ気がした。