恋は理屈じゃない
副社長に酔わされて
速水副社長と私を乗せた車のブレーキがかかる。運転席から外に出た笠原さんが、後部座席のドアを静かに開けてくれた。
「ありがとうございます」
「いえ」
笠原さんにお礼を言いながら車から降りる。私の後に続いて外に出た速水副社長は、とある一軒家に向かって歩き出した。
ほのかな灯篭の明かりに照らされたアプローチを進むと、純和風作りの家が見えてくる。速水副社長がカラカラと引き戸を開けると、奥から着物姿の女性が姿を現した。
「まあ、速水様、いらっしゃいませ。今日はかわいらしいお連れ様とご一緒ですのね」
看板ものれんも掲げていない料亭の入り口で、柔らかい笑みを浮かべる女将さんに向かって頭を下げた。
「彼女は知り合いの妹なんだ」
速水副社長が、私の説明をする。
「あら、そうでしたの」
「ああ。予約もせずに急に来て悪かったな」
「いいえ。そんなことお気になさらずに。さあ、どうぞ」
「ああ」
促されるままパンプスを脱ぐと店に上がり、青竹が美しくライトアップされている中庭を眺めながら廊下を進む。個室の座敷に案内されると、速水副社長がスーツの上着を脱いだ。
上着を受け取りハンガーに掛ける女将さんに、速水副社長が早々に注文をする。