恋は理屈じゃない

「今日は純米酒を頼む」

「はい。かしこまりました。すぐにお持ちいたします」

「ああ。よろしく」

私たちが腰を下ろすと、女将さんが個室から出て行った。

テーブルを挟んだ向かいに座っている速水副社長は、指先を絡ませるとネクタイを緩める。

うわぁ、格好いい……。

その大人の余裕と色気を感じさせる仕草に、胸がドキリと音を立てた。

速水副社長を意識してしまったことが恥ずかしい。慌てて視線を逸らすと、個室のドアがノックされた。

「お待たせいたしました」

女将さんの手によってテーブルの上には純米酒の透明なボトルとグラス、そしてハモとタコのお造りと胡麻豆腐、茄子の煮おろしが並べられる。

「おいしそう!」

思わず声をあげてしまうと、速水副社長と女将さんが同時に笑った。子供っぽい反応をしてしまったことが恥ずかしい。

「さあ、どうぞ」

「あ、でも私……」

女将さんに飲んだことのない純米酒のボトルを差し出され、戸惑う。

「純米酒はフルーティーで口あたりがまろやかな酒だ。日本酒を飲んだことがないお子様な鞠花ちゃんでも、きっと飲めるはずだ」

私を子供扱いする速水副社長の言葉が腹立たしかった。けれど飲みやすいという純米酒を注文してくれた優しさはうれしい。

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