恋は理屈じゃない
「そうしたら取りあえず距離を置こうって言われて、仕方なく承諾したんです。でもさっき……」
車の後部座席から見えた光景が頭の中で鮮明によみがえり、思わず言葉に詰まる。
「彼氏と知らない女が一緒にいるところを見てしまった、だよな?」
速水副社長の言葉に無言のままコクリとうなずくと、深い悲しみに襲われた。ユラユラと視界が揺れ出し、小さく鼻をすする。
「鞠花ちゃん。彼氏の名前と生年月日を今すぐ俺に教えろ」
「えっ?」
けれど速水副社長の思いがけない言葉に驚き、瞳に浮かんだ涙も引っ込んでしまった。
「妹になる鞠花ちゃんを悲しませる奴は俺が許さない。そいつに地獄を見せてやる」
たしかにグランディオグループの副社長である彼なら、ありとあらゆる情報網や人脈を活用して人を追い込むことができるのかもしれない。
でも地獄って……。
速水副社長がお姉ちゃん以上に面倒くさい人だということを初めて知り、慌ててしまった。
「そんなことしないでくださいっ!」
「どうしてだ?」
「彼氏に復讐したいわけじゃないし……」
今はまだ、圭太のことを思い出すと胸が痛むし、できれば別れたくない。でも圭太が不幸になればいいとも思えない。
この先、いったいどうしたらいいんだろう……。
ひとり、深く考え込む。