恋は理屈じゃない
それなのに、妹の私に『花嫁になってくれ』と言うのは、どうして?
訳がわからずに戸惑っていると、抵抗する間もなく結婚披露宴会場から連れ出されてしまった。
「実は花嫁役を頼んでいたモデルが急病でこられないと連絡があったんだ」
私が結婚披露宴会場で装花作業をしていたのは八月の第四土曜日の今日と、明日の日曜日の二日間、ホテル・グランディオ東京でブライダルフェアが行われるため。
私の身長は百六十センチ。しかし丸顔で黒目が大きい童顔のせいで、実年齢の二十四歳以下に見られることが多い。けれど、これでもブライダルフラワーコーディネーターという職業に就いている社会人なのだ。
「あの、花嫁役のモデルさんが来られないことはわかりました。でも、それと私とどういう関係が?」
速水副社長は足の長さの違いをちっとも考えずに、早足で廊下を進む。
「今から代わりのモデルを派遣してもらっても、午前十時からの模擬挙式には間に合わない。だから須藤さんに花嫁役をしてもらいたい」
「えええっ!」
驚きの声を大きくあげると、速水副社長の足が止まった。
「うるさいな」
速水副社長は片目を閉じつつ、迷惑そうな表情を浮かべた。
突然、花嫁役を頼まれて迷惑しているのは私の方だ。
けれどグランディオグループの副社長である彼に、面と向かって文句を言う度胸はない。