恋は理屈じゃない
「距離を置くとか言ってないで、鞠花ちゃんの方からフッてやればいい。そして俺みたいなイイオトコを見つけて幸せになってやれ」
「……自分でイイオトコって言っちゃうんだ」
半ばあきれながらツッコむと、速水副社長の口もとが自信ありげにニヤリと上がった。
「あたり前だろ。イケメンのうえに優しくて紳士的で、仕事もできるし人望も厚い。それから……」
うわぁ、すごい自信……。
まだまだ続きそうな速水副社長の話に飽きてきた私は、口を挟む。
「はいはい、わかりました。副社長はイイオトコです。だからもう自慢はやめてください」
「別にこれは自慢じゃない。事実を話しているだけなんだが……。まあいい。それより、鞠花ちゃん、飲め」
「あ、はい」
透明な液体が、なみなみとグラスに注がれる。
「ほら。もっと、グイッと」
「は、はい」
『グイッ』と言われても、お酒はあまり強くない。それでも勧められるがまま、口あたりのよい純米酒を口に運んだ。その結果……。
「まあ、若い女の子をこんなに酔わせるなんて……。速水様ったら、いけませんわ」
「まさか、こんなに弱いとはな……」
速水副社長と女将さんの会話が遠くから聞こえる。意識はあるのに身体が動かず、瞼も重くて目を開くことができない。
今日は仕事も忙しかったし、疲れたな……。
心地よい揺れに身を任せていると、徐々に意識が薄れていった。