恋は理屈じゃない
頭の上で速水副社長の手がポンポンと軽く跳ねる。
たったそれだけのことなのに、ささくれだった心が落ち着くから不思議……。
速水副社長の手の温もりを心地よく感じていると、横から笠原さんの声が聞こえてきた。
「副社長、そろそろ」
「ああ。鞠花ちゃん、すまない。これから東京駅に向かわないとならないんだ」
頭の上から速水副社長の手が離れる。
「出張ですか?」
「ああ。一週間、東京には帰ってこない。そうだ、鞠花ちゃんにも土産を買ってこよう。なにがいい?」
急にそんなことを言われても、すぐには思いつかない。
「……お菓子、かな」
取りあえず無難な答えを口にしてみた。すると、速水副社長の視線が私の足もとから上へと移動する。
「デブ確定だな」
「ひどいっ!」
また意地悪を言う速水副社長を軽く睨みつける。
「あはは、そうムキになるな。お菓子だな。了解。いい子にして待っているんだぞ」
「もう、子供扱いしないでください」
子供に留守番を頼むパパみたいな速水副社長の言葉が不服で、また唇を尖らせた。そんな私の様子を見た速水副社長がクスリと笑う。
「じゃあな」
「はい。いってらっしゃい」
速水副社長はコクリとうなずくと、足を一歩踏み出す。
一週間も帰ってこないんだ。なんだか寂しいな……。
そんなことを思いながら、背筋を伸ばして足を進める速水副社長の後ろ姿を見つめた。