恋は理屈じゃない
別れてあげる
【大事な話がある】と圭太を呼び出したのは、別れを切り出されてから二週間が経った九月第二週の水曜日。仕事を終えると前回と同じように、待ち合わせ場所である駅前のコーヒーショップに向かった。
店に入って辺りを見回しても、圭太の姿はない。真夏のようにエアコンが効いているわけでもないのに身体が小さく震え出したのは、これから人生初の“別れ”を経験するからかもしれないと思った。
ホットのハーブティーをオーダーすると、一番奥の席に座る。カップに両手をあててハーブティーに口をつけると、冷えた身体と指先が徐々に温まっていった。
「鞠花、お待たせ」
「圭太……」
スーツ姿の圭太が、向かいの席に腰を下ろす。
「大事な話って、この前の続きだよな?」
楽しかったことや悲しかったこと、うれしかったことや腹が立ったことなど、圭太とは話題が尽きなかった。しかし今のふたりの共通の話題は、別れ話のみ。
物悲しい気分に襲われる。
「……圭太、私に隠していることない?」
「べ、別にないけど」
速水副社長の車の中から圭太を目撃したのは、偶然が重なったから。私がなにも知らないと思い、嘘をつく圭太にショックを受ける。
「私、見たんだよ。先週の日曜日、圭太が髪の長い女の子と楽しそうに腕を組んで街を歩いていたところを……」
「……っ!」
目の前の圭太の瞳が、驚きで大きくなった。