恋は理屈じゃない
「休みが合わないっていうのが別れの理由じゃないよね。圭太、私ときちんと別れていないのに、もうほかの人と付き合っているんでしょ?」
震える声で尋ねると、圭太の顔が下を向く。
「ごめん。鞠花を傷つけたくなかったんだよ」
「圭太から別れ話を持ち出された時点で、もう充分傷ついているんですけど……」
「……ごめん」
『ごめん』ばかりを繰り返す圭太を責めていても、虚しくなるばかり。
もう私たちはもとには戻れない。悲しいけれどそれが現実だとわかってしまった。
「もういい。圭太の望み通り別れてあげる」
別れることを承諾すると、ようやく圭太の顔が上がる。
「鞠花、ごめんな」
謝ってもらっても、余計惨めになるだけだよ……。
「私、もう帰るね」
圭太の瞳に私が映るのは、これが最後。
いつか圭太が私のことを思い出すのなら、ブサイクな泣き顔の私ではなくて笑顔の私を思い出してほしい。込み上げてくる涙をグッと堪えると口角を上げる。
「鞠花。元気でな」
「圭太もね」
「ああ」
イスから立ち上がると、背筋を伸ばして足を進めた。
うつむいたら、きっと涙がこぼれてしまう……。
だから私はコーヒーショップを後にしても足もとに視線を向けることなく、前だけを真っ直ぐに見つめて歩き続けた。